※新組織改編前に作成した記事です
柳堀 恭子さん
- 大学勤務
- 企業科学専攻 システム・マネジメントコース
- Q.入学の動機を教えてください。
- A.修士課程での研究を発展させたくて志望しました。修士課程については、元々、産学連携による知的資産の活用に興味があったこともあり、東京理科大学大学院で知的財産について学びました。しかし、特許については素人でしたので特許明細書を読み解くことも困難でした。このような経験から、どうやったら難解な特許明細書を読み解くことができるのかに興味を持ちました。修士課程の研究テーマは知財に対する考察のようなものではなく、類似の文章を見つけるための処理方法をテーマに行ったのですが、当時の修士課程では情報学系の科目がありませんでしたので独学での研究になってしまいました。研究が中途半端で終わってしまったという思いと、まだまだ改善の余地があるのでは、という二つの思いからGSSMの博士課程への進学を決めました。
- Q.研究内容を教えてください。
- A.類似文書検索を特許の分野に応用する、というのが研究テーマです。特許出願者は新しい発明を説明するために造語を行い、既存辞書にない言葉を特許文書に用いる場合が数多くあります。そのため先行技術の調査段階において、類似の特許であろうと思われる類似文書を見つけることが難しくなっています。私の研究では類似文書を見つける方法として、特許文書のなかに出現する名詞群をいくつか組み合わせたような複合名詞群を拒絶理由通知書のなかから抜き出し、そこから複合名詞の類似辞書を作成し、利用するという手法の提案を行いました。加えて既存の類似文書検索に応用されてきた類似度との違いを比較することで、複合名詞の辞書データの有用性を示すという研究を行いました。指導教員は自然言語処理がご専門の津田和彦先生にお願いしました。
- Q.研究を進める上で大変だったことはありますか。
- A.研究用データの収集ならびにその絞り込みが大変でした。特許資料は複数の種類がありますし、特許庁のDBに蓄積されている特許データも膨大です。そのなかから研究に最適な資料をどのように見つけるか、ずいぶん悩みました。また、津田和彦先生からは研究の新規性についても指摘されており、対象を拒絶理由通知書に絞ることが決まったのは1年次の終わり頃でした。さらに、拒絶理由通知書の拒絶理由の書き方が審査官によって大きく異なっていましたので、数千件超の拒絶理由通知書から研究対象になる得るものを手作業で取捨選択することも必要でした。
- Q.GSSMでの学生生活についてはいかがでしたか。
- A.3年間での博士号取得を目指していましたので、ずっと追われている感じでした。査読論文3本をいかに通すかが重要であると考え、年単位・月単位で計画を立てました。例えば、毎年、国際学会と国内の学会での発表を課すと宣言し、それを実行しました。幸いなことに1年次から国際学会で発表の機会を得ることができました。英語が得意な訳ではありませんでしたので発表準備など苦労もありましたが、積極的に海外の研究者に話しかけネットワークも構築できました。もちろん、大変なことばかりではなく日々の授業や学会参加、ゼミ後の食事会など楽しいことも多くありました。忙しい3年間でしたが辛いということはなかったですね。
- Q.ゼミはどんな雰囲気でしたか。
- A.津田研究室では、毎週開催の合同ゼミと研究の進捗に応じた個別ゼミが行われていました。合同ゼミは、毎週土曜日。現役生に加えて修了した先輩方も参加しています。そのため各自が研究について発表し、さまざまな意見や助言をいただくことできる貴重な場でした。博士課程は個人の研究が中心のため煮詰まることもあるかと思いますが、開かれたゼミに参加したことで、いま何をすべきか、自分の位置を確認できましたし、他の学生の発表も参考になりました。また、ゼミ後は食事会で研究の進捗状況を共有しあえたのでモチベーションの維持にも役立ちました。
- Q.印象に残っている科目があれば教えてください。
- A.興味深い授業がたくさんあったのですが、例えば、吉田健一先生の「ネットワーク特論」は、質の高い論文(英文)のなかから選択した1本を解釈し、それをみんなの前で発表するスタイルの授業でした。決められた期限のなかで論文をいかに正しく読み解く力が重要なのかを実感することができました。私たち学生は論文を投稿する側ですが、もし査読者であったらこの論文を通すか、通さないか、そんなことまで考えることができ、私の論文執筆にも役立ちました。
もう一つ、印象に残っているのが倉橋節也先生の「複雑システム論」です。こちらは複雑システムのさまざまなモデルについて、実際にRを用いて演習を行いました。課題では、選択したモデルを自分自身の研究に絡めるとどんな知見が見えてくるのかなどを演習し、発表も行いました。 - Q.仕事や家庭とGSSMを両立するコツはありますか。
- A.2年次に結婚したことで生活が一変しました。仕事・研究・家事に加えて、通勤時間も長くなりました。時間的余裕がない状況でしたので、職場には早朝出勤を行い、研究についても自分の考えに固執しすぎず、煮詰まったら早めに先生や先輩に相談しました。家族の協力もありましたが、目の前の課題に対して柔軟に対応し、早め早めに予定を修正したことで時間をうまく使うことができました。GSSMは、授業の課題や演習も多いですから時間管理は重要だと思います。
- Q.忙しい中でどのようにモチベーションを維持されたのですか。
- A.一番大きかったのは、ゼミ仲間の存在です。毎週のゼミで互いの進捗を確認することで、遅れていることを認識し、それを励みにしました。また、出来ないことの言い訳をプライベートや仕事のせいにしたくないと常に考えていましたし、女性だからできないと思われたくないとも考えていました。博士課程でも女性が増えてきたとはいえ、まだまだ女性は少ないように思います。しかしながら、考え方の柔軟性や時間の使い方は女性の方が上手だと思うことも多くありますので、迷っている女性の方がいたら是非トライをおすすめしたいですね。
- Q.GSSMで特に良かったことはありますか。
- A.たくさんあります。同じゼミの仲間と3年間で修了できたこと。さらに、いろんなバックグランドの社会人学生と知り合え、新しい人間関係が構築できたのも良かったですね。また、がんばったご褒美として修了式で研究科長賞をいただけたことも嬉しかったです。
- Q.今後のキャリアや研究について教えてください。
- A.私の場合は、研究と仕事が直接関連していないのですが、GSSMでの3年間で今後も研究を続けるための人的ネットワークが構築できました。じつは修士時代にお世話になった研究室の先生から自然言語処理とAIを利用した別テーマの宿題をいただいていて、現在それについて検討しながら、津田ゼミにも参加させていただいています。ゼミで最新の研究動向を収集しつつ、今後もライフワークとして研究を続けていきたいですね。
ありがとうございました。
(2017年2月取材)