※新組織改編前に作成した記事です
林 正治さん
- 金融情報サービス会社
- 経営システム科学専攻
- Q ふだん、どんなお仕事をされていますか?
- A 主に金融機関などの機関投資家向けに金融情報サービスを提供する会社の役員をしています。大きな組織ではないので役員としての仕事のほかにプレーイング・マネジャーの役割を果たす必要もあるので、営業とマーケティングなどを中心とした業務活動に費やす時間も多い仕事です。また、役員として会社の運営にも責任を持たなければなりません。さまざまなステークホルダーとの関係について考えるようになったのも、今の仕事をしてからだと思います。
- Q GSSMでどんな研究をしていますか?
- A GSSMでは吉武先生の研究室に属していました。吉武先生は、民間出身の研究者で物事に対して実務とアカデミックの両面からとてもバランスの良い見方をされる方です。吉武先生のもとで、コーポレートガバナンスと企業パフォーマンスに関する研究を行っていました。具体的には、近年の取締役会改革が企業業績に与える影響について、実証検証を中心にした研究です。企業業績を取締役会の構成と紐付けて捉える見方は、比較的新しいテーマに入るかと思っています。いま進行中のコーポレートガバナンス改革を研究テーマとして捉える難しさもあるのですが、少しずついろいろなデータも蓄積されてきていますし、この研究を行うことでこれまでの成果に対して少なくとも何かしらのフィードバック的な考察ができるかなと思っています。
- Q 社会人大学院で学ぼうと思ったきっかけは?
- A 学生時代が終わり、約10年、国内の証券会社で働いて、その後アメリカに留学しました。帰国後、現在の会社に入って12~3年経って役員になった後、知らないことが多すぎる、もう少し勉強しなければという思いが出てきて大学院に進むことを考え、学校を探し始めました。ここを含めていくつかの夜間の社会人大学院を検討し、一番自分に合いそうなこちらを選びました。
- Q GSSMを選んだ理由は?
- A ここは取り扱うテーマが幅広い学校だと思います。「マーケティング」や「金融」、「経営論」などの他にもデータ・サイエンスに結びつく科目も多くて今後の自分に必要な知識を得られる学校だと思ってGSSMを選びました。他の学校では、データ分析を経営に結びつけるようなプログラムはあまりないように思いました。
私はずっと文系だったのですが、今は仕事でもデータ分析をどう活用するか議論する機会がとても増えています。同級生には「データサイエンティスト」と呼ばれる人たちが多くいて、彼らから沢山の知見をもらえたので、2年間終わってみると少しは自分自身の知識も上がったのかなというレベルにはなれたかなと思います。 - Q 研究をどう実際のビジネスに
役立てたいとお考えですか? - A 今回の研究テーマそのものが直接ビジネスに役立つかどうかは実はまだわかりません。しかし、アカデミックな観点から自分が興味あるテーマに腰を落ち着けて取り組んだことはビジネスでも役立つ経験だと思います。
まず、アカデミックな観点から修士論文を書きあげる中で必要となる問題意識、仮説の導出、仮説の設定、検証、考察という一連の流れを約1年以上に亘って繰り返し行うことで、物事を論理的に考える力がとても深まったと思います。特に、仮説を設定して検証するという作業はビジネスでも非常に重要ですし、統計的アプローチやデータ解析手法についてはそのままビジネスでも役立つスキルなので、GSSMで鍛えてもらえて本当に良かったと思います。
30代の前半に海外の大学院を出たのですが、その学校はディスカッションやケーススタディなどの比較的実践的なプログラムが多くてそれはそれで役立ちました。しかし、当時の授業は長くても2カ月から3カ月もあれば終わってしまいました。一方で、GSSMでは1つの研究テーマについて約1年以上に亘って3名の先生方と徹底的に議論して全員を納得させないといけないので、相手を納得させるための説明力は身につきます。2つの学校を比べてみると、よりビジネスパーソン向きのプログラムは実はGSSMなのではないかとも感じています。
二つ目は、研究の成果があることでビジネスにおいて研究テーマに関する議論や話になった場合に、アカデミックな根拠をもって対応できる事だと思います。ビジネスの世界では、往々にして、実務的にはこうだからといった抽象的な根拠で話が進む場合も多いのですが、アカデミックな観点からの根拠があれば、相手の方にとっても議論のベースとして受け入れやすいと思います。国内・海外を問わず、何名もの研究者によって検証されてきた内容というのは、企業でビジネスに関わっている人々にとっては、貴重な知見なはずですし、アカデミックな根拠を土台に実務的な話を積み上げていくこともできるかなと考えています。
- Q 日々の授業についていくことの
困難はありましたか? - A 最初の3ヶ月は大変でした。私は最初の1ヶ月で5キロ体重が減りました。これまでは、コンピューターはWindowsしか扱っていませんでしたが、GSSMに入ってみたらUNIXを使っていて、「これは何?」という状態でした。まさにカルチャーショックでしたね。システム系の人にとってはUNIXなんて当たり前ですし、プログラムをかじったことのある人も大体分かっている。でも、それ以外のクラスメート10人くらいは皆大変でした。勉学で無い、そもそものところでつまずくわけです。コンピューターを立ち上げることも出来ない状況で、夜中までコンピューター室にいると、クラスメートが「私も分からない」と声を掛けてくれて少し救われる。そのうちに周りにだんだん教えてくれる人も出てきて、何とかなり始めるのが3カ月目位でした。その辺りからは少し力の抜き方も分かってきた気がします。
クラスはデータ分析、IT、マーケティング、金融、会計、組織、人事など各分野の専門家が集まっている感じでした。各分野のどの授業でも一人や二人は必ずその道の専門家がいるので、わからない人がいても必ず誰かが助けてくれました。みんなが持ちつ持たれつだったのです。そういう意味でこのクラスメートと一緒に勉強出来て本当に良かったです。私にとっては、彼らも優秀な先生だったわけです。 - Q 仕事をしながら、GSSMへ通うことへの
困難はどんなことでしたか? - A 社会人学生として一番苦労したのは仕事時間のやりくりでした。授業は午後6時20分からスタートしますので、私の場合はオフィスを5時45分には出なくてはなりませんでした。一日の仕事を終える時間は決まってしまいましたから、早朝出社をすることで仕事をこなしていました。朝はだいたい7時前後に出社していました。慣れてしまうと早朝出社の方が仕事の効率が高まる気がします。驚くべきことに、クラスメールのほとんどは授業が始まる頃には来ていて、「早く帰ろうと思えば帰れるな」と言っている人が多かったと記憶しています。仕事がどうしても多い場合は、授業が終わった9時以降に改めてオフィスに戻る日もたまにありましたが、それほど多くはなかったと思います。
次に学業にあてる時間ですが、平日は週3日ペース、そして土曜日に授業に出て、1年目に修了するのに必要な単位の大半を取りました。平日の夜と土曜日の夜に平均2時間程度を強制的に授業対策に割り当てました。私の場合、長時間の集中力は保てない性格なので、良くも悪くも2時間以上はやらないとして、その代わりなるべく毎日、机に向かうようにしました。おかげで、大半の単位を1年目にとったので、2年目が格段に楽になりました。2年目は研究に割く時間が大半となりましたので、帰宅後や週末に自宅で対応可能でした。
これは、ほとんどのクラスメートにも当てはまると思いますが、家族の理解を事前にとることが一番重要だと思います。1年目は平日や週末に家族のために過ごす時間は確実に減りますし、家族への家事の負担も増えるわけです。私の場合、日曜日は学校のことを一切やらない日にしました。こうして、メリハリをつけることで家族のサポートも得やすくなったかなと思っています。
- Q 論文は大変でしたか?
- A 1年以上掛かりました。論文のテーマは、入学した当初に考えていたものと同じ領域で同じ方向ではありますが、ポイントはかなり変わりました。1年目に3人の先生方からフィードバックをもらいながら方向性を決めて、2年目に「ここでいこう」という方向までもって行きました。先生方との議論をして、研究が進んだかと思う日もあれば、時には後退したりして研究はスムーズには進みませんでした。
どの先生も、「やり取りする中で学生の気付きを導き出して成長させるんだ」と仰ってました。ディスカッションは指導してくださる先生と1対1の場合もありますし、他のゼミ生が一緒の場合もありました。大変でしたけど、振り返るとこのディスカッションが一番楽しかったですね。 - Q 入試の準備はどのようにしましたか?
- A GSSMの入試の特徴として、入試の際に準備する「研究計画書」の内容が厳しく問われることがあげられます。どういう目的意識があって、なぜこの研究をするの、というベーシックなところから聞かれます。目的意識がある人はすっといきますが、そういう意識が無く何となく来ると、面接での対応が難しいかもしれません。私の場合は、研究テーマへの目的意識を自分なりに整理しながら、研究計画書の準備に時間を割きました。
- Q 修士課程が終わって、
今後はどのようにお考えですか? - A GSSMで学んだ研究のプロセスや統計・データ解析手法をビジネスの面でも活用したいと思っています。また、自分のペースで研究テーマの深掘りや別の観点からの研究など継続していきたいと考えています。
- Q 職場の人にGSSMで学ぶことをすすめますか?
- A もちろんです。今の職場は既に海外の大学院を出た人が多いのですが、改めて自分の問題意識を持って研究テーマについて学ぶことで、新たな気づきがあると思います。GSSMにはプロフェッショナルに活躍している人々に対して更なる価値を高められるプログラムと先生方がいらっしゃる学校だと思います。
本日は、長時間ありがとうございました。
(2017年2月取材)