※新組織改編前に作成した記事です

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内田 匠さん

  • 株式会社リクルートコミュニケーションズ
  • 経営システム科学専攻

Q ふだん、どんなお仕事をされていますか?
A 人工知能や統計アルゴリズムを応用したシステムの開発に従事しています。仕事の内容としてはシステムに実装するアルゴリズムの検証と選定、精度の改善、システムへの実装(プログラミング)を行っています。
 具体的に言いますと、社内のなんらかのデータをマネージメントして分析したり予測したり、意思決定のための補助ツールにしたり作成したり開発したりしています。
Q GSSMでは、どんな研究をしていますか?
A 吉田健一先生の研究室で研究させて頂いています。研究室では技術的にはデータマイニングやインターネット、分野的には情報セキュリティ、マーケティング、金融の方が在籍されています。
 私個人の研究としては、技術的にはデータマイニングや人工知能、分野としてはWebマーケティングがキーワードになると思います。Webマーケティングのデータを分析する際には疎(Spare、ほとんどのデータが0になる)データであることが問題になりがちです。この疎データの問題をどのように解決していくかが、私の研究テーマです。
 もう少し具体的に言うと、Googleのスポンサードサーチ系の技術やAmazonのレコメンドシステムなど、手法的には協調フィルタリングという手法や、最近ではNetflixという会社が主催した機械学習コンテストではマトリックスファクトライゼーションという性能の良いアルゴリズムが発表されました。そういった論文はオープンに公開されていますので、まずはそれを読めるようになり、自分でプログラムを書いて、具体的に動かせるようになる、という勉強をしました。
 自分だけで勉強するのが苦しい時に、先生に教えてもらいながらという機会もあります。もちろん基本は自分でやるのですが困った時に先生に聞くという感じですね。
Q 困った時とは?
A はじめの一歩として、どうやって勉強するかとなるんですが、そもそもはじめの一歩が分からないので、まずは先生に聞いてみる。じゃあ、本ならこういう本、プログラムだったらこういうプログラムコードから勉強すればいいと、ある程度教えてもらいます。
 実際に会社のデータをある程度持っているなら、それを利用して勉強するのが良いと思います。会社のデータに汎用的なアルゴリズムを動かしてみたら全然動かなかったりするので、実際に仕事を通してブラッシュアップしていきます。

 

Q 研究を、どう実際のビジネスに
役立てたいとお考えですか?
A 大きく2つのテーマがあり、Webマーケティングにおける人の意思決定を”自動化”することと”支援”することです。
 ”自動化”については現在でも十分に事例があります。前述したAmazonのレコメンドシステムやGoogleWeb広告の自動最適化システムなどです。しかし、こういった事例を自社のシステムに実装しようとすると、アルゴリズムやプログラムやサーバーにそれなりの改変や調整が必要となります。そういった課題を解決することが、私の研究が私の仕事に役立っていることです。
 もう一つのテーマである”支援”について、これは非常に難しいです。人の意思決定に関わるプログラムですから、システム担当とはいえ、一定の経営に対する理解がないと何をつくればいいのか分かりません。事例としてはOLAP分析を実現する各種ソフトウェア(Excel、Tableau、PowerBIなど)の実装が進んでいますが、その成功の鍵は企業組織における意思決定という、捕らえがたい(プログラムよりもはるかに難解な)ものを理解することにあるような気がします。
 この大学院の魅力はアルゴリズムや情報技術だけではなく、経営学についても勉強できることですね。
Q かなり実際のビジネスに
役立っているわけですね?
A ええ。私の研究テーマである「疎」データ問題なのですが、仕事上でもそのまま使っています。実は、私がここに来た時はそのテーマ性はなかったんです。アルゴリズムを勉強し、それを仕事上で実際に扱うデータに適応する中で、課題が「疎」にあると気づきました。それで、ようやく研究テーマが固まりました。仕事上の課題がここでの研究テーマとなったことは、かなり幸運だったと思います。
 ただ、やっているうちに「これは本格的にやらなくては」ということになり、当時の会社は一度退職しました。腰を据えてやろうと。で、研究の結果、判明した課題やその解決法をもっと活かしたいと思い転職活動をしました。採用面接で取り組んだ研究や自分がやりたい事を話し、いまの会社に入ったんです。
 仕事をしながらの研究の最大の問題は、時間でした。問題解決する上で、数学をやり直さなくてはならなかったのです。だから思い切って退職して1年半ほど研究に集中しました。当時29歳でした。
Q キャリア形成的には問題なかったのですか?
A 単純にキャリアをお給料だと考えれば、現在は前職より上がっている状況ですので、その期間(離職していた期間)のギャップはないです。
 スキルという意味でのキャリアで言うと、これはかなり良かったと思っています。仕事のスキルがレベルアップしたのは間違いないです。加えて、仕事のスキルとは別にいわゆるアカデミックな世界で認識されるスキルの両輪ができたことが、ものすごい安心感があります。会社だけで働き成長を続けているとふとした瞬間に、「この会社から出たら自分は通用するのか?」という気持ちになります。仕事とは違う、アカデミックな組織でも認められるスキルがもう一つ自分にあるというのは精神的にも心強く感じます。
 また経営学を学べる大学院にいたことも自分のキャリアアップに大きく貢献したと思います。実際に取り組んだ仕事として、社内の意思決定を補助する情報システムのプロジェクトがあります。私はエンジニアとして要求を確認しなければならないのですが、そこには経営層の要求と現場社員の要求とのギャップがあります。
 経営層から見れば「人件費・配置」の課題意識があり、現場社員としては「顧客・労働環境」などの意識が強いです。心情的にも経験的にも現場社員の意見は良く理解出来るので、プロジェクトの成功のためには経営層の課題意識をちゃんと理解できるようになる必要があります。
 ここ(GSSM)に来て良かったなと思うのは、プログラミングだけでなく、経営学も学べるという点です。実際にそういうコマも取って、両方の視点が持てるようになったのは、進めているプロジェクトで評価されているポイントかなと思っています。
 他の人から言われたことですが、1つキャリアアップする時って、自分よりも2つ上ぐらいの人のことが分かってからと言われます。ここは29歳の時に入りましたけど、まわりの学生が社長や経営をやられていたりするのでそういった方から教えていただいたり、その社長が認める教授の理論を勉強して、分からないなりにも専門用語を何個か覚えたりして、社内の経営層の方々とも会話が弾むようになった感じですね。
Q 将来の展望はどういうふうにお考えですか?
A 定年を迎えて働けなくなった時にどこかの教員になるとか、かなあ。教授になりたいとかはありません。専門学校のプログラミングの先生くらいにはなりたい。後、博士号が欲しいです。「内田匠 博士」って名刺に書きたい。

 

Q 仕事、研究、私生活のバランスは
どんな感じですか?
A 正直、言って大変です。ぐちゃぐちゃな状態。つまり、会社の理解がなく反対されたまま来て、家族にも不満があってという状態だと、けっこうつらいと思います。始まると、基本的に土日もなくなってしまうし、そうなると何をしたいか分からなくなってしまう。現況を打破するために来たのに、結果現状がより悪くなってしまったりするからです。
 私の場合は、「会社を辞める」という究極の選択をしたわけですが、おすすめはしません。
Q 会社に居づらくなって退職されたのですか?
A そういうわけではなく、修士論文も前職の会社から協力していただき一緒にやっていたという経緯もありますし、好意的に捉えていただいていました。ただ、会社にいると持って行かないといけない仕事、あげないといけない売上げを背負ったままだと、目標としている研究成果にたどり着けないなと思って、思い切りました。
Q 休職にはされなかったのですか?
A 前職からお声がけいただいていたのですが、せっかくだからと思い切りました。私のようなSEは、大学になんらかの形で関わっている人は多いと思います。単なるエンジニアではなく、統計理論だとか把握している方に限るので。学会に所属されている方は非常に多いです。

 

Q 内田さんは、いわゆる
“データサイエンティスト”なのですか?
A 「データサイエンティストの人事要件とは?」とは会社でも良く聞かれる質問です。私自身はデータサイエンティストだと思ってますが、ではデータサイエンティストとは何なのか?
 これは答えがない世界なんですが、私の考えは、ビジネスとエンジニアリングと少しの統計知識を兼ね備えて、それによる統計アルゴリズムのシステムを実装できないとまず話にならないと思います。
Q “データサイエンティスト”って
実装までおこなうのですか?
A  それは流派によりますね。やりたくないという人もいれば、やるべきだという人もいます。でも、できた方が自分で開発ができて楽しいです。
 最終的には売上げにつなげることが重要です。今、多くの企業がデータサイエンティストを雇おうとしていますが、直接的に収益に関係のない仕事をさせようとしている。それはマネージメントが失敗なのではと思っています。売り上げ貢献度を定量化できないから評価しにくい。でも、とりあえず雇ってみた、というような。
 そうすると、評価もできないし結果も出ない。他の社員からなんであんなの雇ったんだ、と不満が上がってくる。
 まずは、何を分析し何の意思決定を自動化することで収益を改善するのか、その道筋を作るべきだと思います。ここで勉強することによって、データサイエンティストはこういう企業でないと活躍できないということも分かってきます。そういう視点も養われるのが良いことだと思います。

   本日は、長時間ありがとうございました。

 

(2016年3月取材)

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