※新組織改編前に作成した記事です

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若林 歩さん

  • 株式会社資生堂
  • 経営システム科学専攻

Q ふだん、どんなお仕事をされていますか?
A 普段はお化粧品の製造の会社でマーケティングの仕事をしています。今は、美容室向けのヘアケア商品のマーケティングをしています。役職はマネジャーですが、ほぼプレーヤーです。
Q 美容室向けの商品は普通の商品と違うのですか?
A プロが使う商品ですので、要求度も非常に高いので中身も違いますし、売り方も一般のお客様向けではありません。スタイリストやプロの美容師が惹かれる商材やツールを用意します。
Q GSSMでは、どんな研究をしていますか?
A 佐藤先生のゼミで、マーケティングに関する研究をしています。優良顧客の維持のために、どのような手法が有効なのか、POSデータなどを用いてデータ解析をしました。結果として、売上を上げる手法と、優良顧客の来店促進のための手法は異なることなどを示すことができました。
 短期的な売上にとらわれず長期的な視点をもってマーケティングをおこなうことが重要であることは理屈ではよく言われるのですが、市場や顧客をデータでとらえて分析、評価することで得られる結果は説得力がありますし、具体的な手法の提案もできます。
Q 佐藤先生のゼミはどんな感じなのですか?
A ゼミ生全員で集まって発表しあう形式とは違い、個人で先生にアポをとり、1年間は「何が課題で、なんでそれが課題だと思ったのか」ということをひたすら語ります。自分たちは「仕事上、こういった困ったことがあって、こういうことを考えている」「今、市場はこうなっていて、こうです」というようなことを言うと、佐藤先生から、いかに自分たちの課題の捉え方があいまいであるか、流行っぽく喋っているだけでしょう、とすごい量のつっこみを入れられるんです。
 今回の修士論文の発表も、パワポと論文(ワード)を両方用意するんですけど、パワポ100枚は作れるけど、ワード100枚は本当に辛かったです。文章はごまかしが効かない。喋れば「なるほどね」となっても、文章にすると非常に稚拙というかふんわりしてしまって、何が言いたいのかさっぱり分からない、ということになってしまうんです。
Q 大手企業で既に仕事としてマーティングを
している方が、学校(GSSM)へ来て、
得られるものは何ですか?
A 会社でやっていることはある程度パターンが決まっていたり、肝心なところは調査会社に出してしまったりして、結果だけを見てそんな気になってしまう。具体的な手法とか、どうやって作り上げているのか、といったところはふんわりとしか分かっていない。完全に外注化されていて、何十万件というPOSデータを自分で集計して何かをやるということはなかなかないのです。
 ただ、ここ(GSSM)では、調査票から自分で作らなくちゃいけない。この調査票をつくって何を得たいのか、仮説をつけてから調査票をつくらないと大変なことになる。調査後に、こんなことも聞いておけば良かった、とならないように解決したい課題に対して、どういうアプローチをすればよいかを考える必要がある。ただ、やっていても課題はなくならないですから。
 もともと、市場や顧客をデータとその解析で捉えることが重要だという考えはありました。
 確かに、よく「お客様は大切です」「顧客至上主義」というのがあるけれど、お客様を大切にするために何をするの?って話になると、いきなりぼやけていくんです。お客様の欲しいものをどうやって判断するのか。よくアンケート調査をやって、ニーズの高いものを製造販売しても、そんなに簡単には売れない。調査でそれが良いとなって作って売れたら苦労はない、です。
 そういう意味からも、市場と顧客をデータで捉えるっていうのは、具体的にどういうことなのか知りたかった、というのがそもそもの思いです。

 

Q 佐藤先生のご指導は、先生ご自身は”禅問答”と
おっしゃっていましたが、
実際にはどんな感じなのですか?
A 佐藤先生との“禅問答”では、一つの課題としてとらえていた事象も、実は20にも30にも課題は分割できる、という指摘を受け、「今回はどの課題にする?」というようなことになります。研究は網羅的なことはできない。どれがいちばん課題で、持っているデータからできることはどれ?お客様のニーズをPOSデータからどうやって知るのか、と考える。分析手法も統計学的にすごくたくさんあって、どれを使うと何が分かるかというのを議論するというよりは、私がいい加減なことをいって、先生からワーッと怒られて教えてもらうという感じです。私にとっては“禅問答”というより“修行”みたいなものです。
 先生は頭ごなしに言わずに、私の言うことも良く聞いてくださる。大学の先生でいらっしゃいますが民間にいらっしゃったこともあって、実際にメーカーのマーケティングってこういうもんだよね、っていうこともよくご存知です。あんまり難しい手法を持っていっても誰も聞かないよね、といった、実務の苦労についても相談にのってもらいながら、課題を絞り込んでいきます。
 ただ会社でできることをここでやってもつまらないので、ここではもう少しとんがったことを、ここでしかできないことをやろうね、と。研究はいかにとんがらせるかということを教えてくださる。こちらが丸いぼわーんとした山を作ってると、どこをとんがらせるの?という作業をずっと一緒に作業してくれる感じです。
 だから、今取り組んでいる研究が、会社に持っていって今すぐどうにかというよりは、その研究の過程で得た「課題の捉え方」が実務の身になります。
 今回の研究や授業でもいくつか教えてもらっているのですけど、ある意味、”武器”はたくさんもらえる。引き出しが増える。目的はひとつだけど、角度・見方はたくさんあるので、そういう意味でいろんな”武器”をもらって、その使い方を一緒に教えてもらえます。
 いま、統計のソフトって、安くて良いものがいっぱいあるけれど、どんな時にどれを使うかっていうのは、課題を捉えて出てくる結果の仮定を立てないとなかなか上手く使いこなせない。そのあたりをちゃんと教えてもらいました。
Q マーケティング以外のことも学ぶのですよね?
A ええ。私はマーケティングが研究テーマでしたが、講義は、統計学、OR、経営戦略、人材開発、管理会計、ファイナンスなど多岐にわたっていて、幅広く学べたことが何より今後のビジネスに有益でしたね。1年生の時はほとんど皆一緒の授業を受けます。内容が分からなければ、その授業の分野専門の同期が解説してくれて先生になってくれたりもするんです。
 一緒に入ってきた同期は、課題意識・問題意識が非常に高い。それぞれ会計を勉強したいとか、人材育成、人事戦略、経営戦略と勉強したい分野は違う。ここはMBAですから、幅広く先生がいらっしゃるので、入ってくる学生の課題や学びたいことも広い。そういう人たちと話すと、すごく刺激的で非常に勉強になります。
Q どれも大変そうな授業ですね?
A 時間をぎりぎり工面して来ているので、ほっとする授業はいらないんです。これだけ自分の時間を削ってお金をかけて来るから、”何か持って帰るぞ!”とみんな思っている。それに対して先生も非常に真剣です。夜9時に授業が終わってからでも、アポイントを取ればいくらでも指導いただける。「分からない」と言えば、分かるまで教えてくれます。
Q 時間のやりくりは大変ですか?
A 1年目の前半は火曜~土曜日までがほぼ毎日授業。どうしてもダメな場合は週5を週4にできます。2年生に単位は残ってしまうけど。ただ結果からいうと、みんながいる時に一緒に受けておかないと助けてくれる人がいなくなる。週5で取るのはマストではないけれど、必要なものだけ取るのは逆にもったいないと思います。
 本当に面白い授業が多いんです。ちょっと聞けない話が聞ける。セミナーに行ったら、それだけで数万円というほどの先生が話してくれたりするわけです。みんな、授業料分の元を取るぞみたいになります。
 大変は大変だけど、こういう2年間が人生にあっても良い、と本当に思っています。みんな1年生の間はテレビを見なくなり友人の話についていけないなんてこともありましたが、でも逆にいえば今までは見ていた。時間は絞り出せば案外出せるね、と思いました。
Q だいだいどんな一日なんですか?
A  会社をできるだけ早くあがって、夕方18:20からの授業に出席します。正直、結構遅刻もしましたけれど、21時までは授業です。
 授業では課題も出ます。その日の授業後に、図書館が23時まであいているので学校に残って終わらせるか、授業のない日曜日にこなすしかありません。
 授業後はくたくたになってしまい、1週間の課題をまとめて日曜日をつぶしてやることもありました。グループワークも多く、皆で集まれる日に、大抵21:30ごろに集まってやりました。
Q 寝る時間以外すべて仕事と勉強じゃないですか?
A  そうです。だらだらしている時間をすべて勉強にあてた感じです。

 

Q 入学する前と後では全然ちがいましたか?
A  はい、もう全然ちがいます。結局、同期もみんな学校に来るんです。同期が来るとみんなつられて来ます。
Q “同期”って感じなんですか?
A  はい。みんな、畑もちがうし年もすごい差があるんですけど、完全に“同級生”という感じです。異業種の人たちと利害なく友達になることなんてないので、とても面白いです。これも貴重な財産です。

   本日は、長時間ありがとうございました。

 

(2016年3月取材)

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